「よし、当分はこの眼帯つけたままだよ。お大事に」
保健のせんせーはそう言ってにこり、と笑った。 金色の長い髪を緩やかにウエーブさせてて、美人だ。
「キッスィーは男だからな、間違っても恋すんじゃねぇぞ」
橙次が耳元で囁いて。 俺はちょっとだけ驚いた。

「んんーーーふわぁ、あれぇ、ここどこだ?」
遂に目が覚めた赤雷。それに瞬時に反応したのは橙次先輩だ。
「おー赤雷、起きたか、しっかり聞け。この青馬くんはお前さんを見捨てた男だ、気ぃつけろ」
「ぐぅー」
「おい寝るな!まったく橙次さんが忠告してやってるのに、どうしようもねぇねぼすけクンだ」
また赤雷が寝てしまいそうだったので、俺は言った。
「赤雷、起きろ」
「うん? あ、青馬くん」
「俺のことは青馬でいいよ、赤雷」
「そう・・・・ねむい・・・・」
「大地の橙次さんを無視して、二人だけで友好を深めるなぁぁあ!」
眠そうな赤雷に、もう一声かけようかとした時に、床にちっこい犬が目に入った。
「あ、犬」

いつからいたのか、見失ったはずのさっきの犬がいた。
「野生の紫雨。何の用だ?」
黄純先生が目を細めてこう言うと、犬は平然とした顔で喋った。
「別に氷の黄純に用はないよ」
「・・・・黄純先生、でしょう?」
先生は犬と喋っている。あの犬、さっき俺と居た時は喋らなかったのにな。
「い、犬が喋ってる! 犬が喋ってるよせーまくん!」
眠そうにしてた赤雷は目を見開いて、こう叫ぶと俺に縋り付いてきた。 なんだかおろおろしてる。
「さって。はじめましてだね、青馬と赤雷。さっきはまともに挨拶できなかったからさ、 自己紹介に来てやったよん。俺は野生の紫雨、よろしくね冷静クンと眠り姫」
そういえばこの声は聞き覚えがあった、教室で体育館に来いって話しかけてきた、 薄情な人影の声と同じだ。俺は挨拶することにした。
「俺は青馬だ」
「い、いいい犬がしゃべっ、気持ち悪いー! あ、俺は炎の赤雷、です」
「知ってる」
「俺は大地の橙次だ」
「聞いてないよ、先輩。赤雷は去年も会ってるだろ? あの時も、寝てたからなあ。 覚えてないんだろーな」
やせいの紫雨って犬の言葉に、赤雷は申し訳なさそうにこう言った。
「すみません・・・・」
「喋る犬に会っておいて、覚えてないなんざぁ、赤雷もかなぁりの鈍感じゃねえか、がはは!」
「橙次先輩は黙っておいて下さーい、俺は赤雷くんと喋ってるんですぅー」
「・・・・」
橙次先輩は涙目になってる。俺は、目をたれさせて困った顔をしてる赤雷の手を掴んだ。
「それじゃ、そろそろ行きます」
「お大事にね。保健室にはいつでも来ていいから」
「先生ありがとうございました」
俺と赤雷は先生にお礼を言って、保健室を出た。

「俺を無視すんなぁぁあ!!」
「人の話は最後まで聞けってかんじ・・・・」
保健室からは、橙次先輩と野生の紫雨って人の声が聞こえてた。