食事を終えると、俺は赤雷を背負って部屋に戻り、赤雷をベッドに横たえると、紫雨の犬は、さも
当然みたいな顔して、赤雷の腹に乗って、丸まった。今や二匹は、熟睡している。
安眠の中にいるはずなのに、赤雷はどこか苦しげに見えて、悪い夢でも見てるのかもしれないなと思う。
起こすべきか、起こさざるべきか、それは俺にとって大した問題でなく、何もせずただ見ているだけだ。
一人じゃないけど、一人になったような、取り残された状態になってて、だけど俺は寂しくないのは、
一人なのが慣れてるから、かもしれない。両親が早くに亡くなって、俺は一人で暮らしてたから、一人は
慣れてた。
苦しそうな顔をして寝てる赤雷はもしかしたら、家族と離れてドミトリーに来たのが
苦しいのかもしれなくて、
赤雷には、家族がいるんだろうかと、寝顔を見つめてその顔に似た赤雷の家族を想像してみた。
すぐに馬鹿らしくなって、やめた。
北側に一つだけ届かない高さにある窓から、闇が這い寄り、急速に日が落ちて、ただでさえ
日当たりの悪そうな部屋は夜に、落ちた。
俺も寝た。
翌朝。
「うあーーーーー!」
奇妙な叫び声で目が覚めて俺は、視界に広がった見慣れない部屋に途惑うより先に、声の主を捜してた。
隣のベッドに横たわる、赤毛・・・・そうこいつは新しい同級生で、友達の赤雷だ、その腹の上にちっこい犬が
立ってて、それがどうも叫んだ犯人らしい。
「朝っぱらからなんだ?えっと、誰だっけ君」
頭には紫雨って名前が浮かんでたけど、紫雨は同時に先輩で改造した制服着た人間だった記憶がある、だから聞いた。
「ちょっと、ちょっと、紫雨さんの名前、忘れちゃうなんて酷いじゃーん、って今はそんなこと言ってる場合
じゃないんだよぉ〜、うあーん」
犬は赤雷の腹の上を、走り回って喚いてて、相当混乱してるようだ。寝起きの俺もだけど。
犬の下で赤雷が、唸っている。起きそうで起きないから、起こすことにした。
「赤雷起きろ朝だ・・・・天気は分かんないけど」
いい天気だぞ、とか今日の天候について告げたかったけど、生憎窓からは、よく分からなかった。
心持ち曇ってる気はするけど、定かじゃない。気持のいい快晴だったらいいんだけどな。
「おい青馬、俺のこと無視すんなよ!」
天候に思いを馳せかけたら犬が邪魔してくる、俺は視線を窓から移す、そしたら赤雷の目が開いた。
「う・・・・お腹が痛い・・・・」
「うー、まさかあのまま朝まで寝ちゃうなんてなー、晩飯食べ損ねちゃったじゃないかぁ!」
俺は赤雷に声を掛けた。
「おはよう、赤雷」
「ちょっと、ちょっとー、爽やかな笑顔で俺だけ無視するなんて、青馬ってば鬼畜!」
「・・・・おはよう・・・・いてて」
腹を押さえた赤雷は、苦しそうだ。腹痛か?慣れない環境に神経が参ったのか、そういえば繊細そうな髪の毛だ。
俺は紫雨に声を掛けた。
「紫雨」
「ほぉいっ、やっと俺を気に掛けてくれたかぃ」
「ここには保健室とかは、あるのか」
駆け回ってた犬は、大人しくなって腰を下ろした。
「ないよ」
一言だけ、俺に返して寄越すと犬は、部屋から出て行った。
部屋は俺と赤雷だけ、本来の有るべき姿になった。
「はふう」
苦悶に歪ませていた顔を弛緩させて、赤雷。大丈夫なのか、と尋ねる代わりに俺は赤雷の腹に、耳を当てた。
そっと手を添えて、様子を伺って小さく呟いた。
「痛いの痛いの飛んで、いけ」